ひつじ日和

ひつじです。つらつらと書きます。

僕たちに似合う世界まで。

今も尚、世界各地で終息が見えないコロナウイルス
その未知のウィルスはいとも容易く僕達の世界を一変させた。 

以前のように簡単に出歩くことさえままならず、かつて見たことのない自粛が呼びかけられた。

街からは人影が消え、人会話することさえ控える様になった

当たり前にできていたことができなくなり、 
今まで僕たちがいた世界は音もなく崩れてしまった。

音楽イベントは密集するため中止や延期が相次ぎ、オンラインライブを行うアーティストも多かった。

だからこの禍中で、僕達のロックスター、伊東歌詞太郎がワンマンライブツアーを開催すると聞いたときは嬉しさと不安があった。

最後のツアー“君住む街へ”ぶりのツアー。
また彼の歌声が生で聴けることへの嬉しさ。
ただ、混乱が続く禍の中で本当に開催するのかという不安。

本当に開催するのか。
そんな気持ちのまま僕はチケットを申し込んだ。
きっと年明けには状況は変わると根拠のない確信を持っていた。

しかし、年末から年明けにかけ、そんな僕の思いと裏腹に状況は悪化していった。
日々、患者数は増えていき再び緊急事態宣言が一部の地域に発出された。

例に漏れず、彼のワンマンライブツアーも静岡、大阪、仙台と延期が発表され、このままだと東京も延期になるだろう。と思いかけた。

しかし、開催が決まったという情報が発表されるとまた彼の歌声が聴けるという嬉しさがこみ上げてきたが、やはり不安もあった。
もちろん、バカが付くほど真面目な彼のことだ。
ガイドラインに沿ったライブを行うのはもちろん、感染症対策をしっかり構築した上で敢行すると信じていた。

しかし、もしライブ参加者でコロナウイルスに感染した人がいた場合、クラスターになってしまわないか。大規模イベントだ。クラスターなんて出たらテレビで報道され、彼の活動に影響が出るのではないか。そう思ってしまった。

そんな期待と不安を抱えたま、当日を迎えた。


2021年2月11日。
東京・恵比寿ガーデンプレイス
会場には多くのファンが集まっていた。
以前と変わらない光景だが、皆マスクをつけ適度に離れているのを見ると世界が変わってしまったことを改めて実感する。
あの頃の世界ではないんだと。

そこにいるファンの表情はマスクで隠れているが嬉しさで笑顔であろうとそう感じた。


会場に入り驚く。
椅子が並び、前後左右が空いている席配置となっていた。少しでも密集を避けるためだ。
手指消毒、検温はもちろんのこと、チケットはラインを用いたもので、有事のときにはそこから連絡が来るのだろう。また当日券やチケットは持っていないがグッズを購入する際は問診票に住所や連絡先を記入しなければ行けなかった。

指定された席に座り、開演を待つ。
開演前独特の緊張感が会場を包み、照明が落とされると一気に緊張感が増す。

オープニングSEからバンドメンバー、そして歌詞太郎本人が登場すると大きな拍手で彼を出迎えた。

バンドメンバーをバックに彼は「ようこそ!!」と高らかに北極星を歌い上げ、続いて「革命トライアングル」で会場は更に盛り上がる。
2曲披露すると照明がつき、彼自身がお辞儀すると会場には、拍手だけが響いた。
これも感染症対策だ。飛沫防止のため声を出すことすらできないのだ。
本当なら曲の合間や、コール・アンド・レスポンスで一緒に歌うことが大好きな彼だ。
演奏中に手拍子しかならないのは初めてではないか。
鳴り止まない拍手を受け彼は声を震わせながらなんども「ありがとう…ありがとう‥」そう呟いた。

声を上げることのできない僕達は拍手で答えるしかなかったのだ。

そして口を開く。
今回の開催に当たり凄く考えたということ。
ガイドラインに従い、観客数や席の配置など本当に多く考えたと。

その中で来ることを選んだ人。
来ないことを選んだ人。
開催すると決めたアーティスト。
開催しないと決めたアーティスト。
様々な人が悩んで弾き出した答えはすべて正解なんだと言っていた。

続けて言う。
音楽は自分にとって日常だと。
息をするのと同じで、日常生活の一部。だから改めてSNSで言う必要もない。と。 
でも彼の歌うという日常は非日常になってしまったということ。

改めて目に見えない脅威の恐ろしさを実感する。
当たり前が当たり前では無くなってしまった。

こんなことも言っていた。
曲の合間に見えるみんなの顔がよく見えると。
こういう表情で見ていてくれたんだとわかった。
マスクをつけていても笑ってるのがよく分かると。
人との間隔が空いてる分良く見えるのだろうとそう思った。

どんな世界でも彼は彼だ。

その後、ボカロ曲やオリジナル曲を続けて歌い上げた。歌う彼の姿は以前と同じ。
精一杯という言葉だけでは物足りないぐらい音楽に向き合って魂込めて、音楽に命を宿す。
彼の音楽は生きていると強く思う。
それがボカロ曲のカバーでもオリジナル曲でも同じ。
強いメッセージ性を持った歌声で僕達に語りかけてくる。
心が震えずにはいられない。
本当は声を出して応えたいが、そうできない今僕達にできる術は拍手しかない。

ガイドラインに従うとそのような曲は演奏できないんだろうと思った。

そう思った矢先彼は言った。

『このツアーのセットリストは変更したところも多々あった。声が出せないのでそういう曲は入れなかった。歌えない分は僕が代わりに歌うから心の中で歌ってほしい』

笑って話していたが多分彼が一番悔しかったはずだ。過去ツアーでファンの反応を見たり、一緒に歌うことで嬉しそうにしてた彼だ。その機会が奪われた。
でも心で歌ってほしいという。

こういう姿勢がたまらなく好きだ。

その後も自身のシングルから『記憶の箱舟』や『僕たちに似合う世界』を歌い上げた。

『僕たちに似合う世界』を歌うと彼は口を開き、
この曲はコロナ禍以前からあった曲であると言った。それもそのはずだ。この曲は彼のエッセイのイメージソングでもあるのだ。
でも世界的な疫病の流行の中でこの歌の一節

〚終わりのない旅路の向こうに
 終わりのない幸せがあると
 本当の気持ちだけ伝えていくよ〛

ここが妙に響いたのだ。
終息はするがウィルスは姿かたちを変えまた僕達の前に現れるだろう。
この新しい生活様式に終わりはない。
でもその先に幸せがある。
その幸せかどのようなものかは分からないが、幸せが待っていると信じることができるのはこの曲のお陰であると思う。

続いて、劇団銀岩塩の公演に際し書き下ろされた新曲World's end
彼自身ちょっとチャレンジした曲で歌うのに少し構えてしまうのだという。
確かに彼の曲は力が大きい。
聴く側も構えていないと心が驚くほどの力がある。
そして歌う前こんな一言を残していった。

『この曲を歌うとき構えなくなったらまた一つ成長したと思えると思います!!』

全く。本当に音楽に生かされ、生きている人なんだなと感じずにはいられなかった。

曲が始まりビリビリと肌に音楽が飛んでくる。エネルギーが強いのだと思う。
言葉一つ一つが胸に刺さる。

以前彼は著書で言っていた。

『音楽はリスナーに聞いてもらってか価値をつけてもらい、その人の中で魔法になるのだ』

初めて聴く曲でも、その人の中では魔法になり得るのだ。

聞いたことの無い新曲を聞いてそう思った。

その後ライブの定番ソング「I can't stop falling love」へ
ライブ終盤になり会場は盛り上がりを見せ、「タオルを回すことはガイドラインには乗ってなーい!!」と叫び、会場ではタオルが回る。

曲中の声を出すのところは誰一人発せず、手振りで彼に応える。

会場がひとつになる。そんな感覚になる。
思えば会場がひとつになれる曲はこの「I can't stop falling love」だけではないだろうか。
早くまたみんなで『Jesus!Jesus!』と叫べる日が来て欲しいとタオルを回しながら願った。

その熱気のまま最後「magic music」へ。

『また会いましょう!!』
そう言って歌い始めた。

いつ聞いてもこの曲は僕たちと彼を繋ぐ曲としか思えない。
また会いたい。
また会いたい。
またあなたに会いたい!!
そんな気持ちが強くなる。

また会えたら僕だってあなたのこと思う。
彼のmagicで沢山救われてきたのだ。
泣きたいこともこの一年沢山あった。

でも彼に会いに来るとまた前を向ける。
そんな魔法をかけて貰える気がする。

もし、暫く会えなくなったとしても大丈夫。
だって魔法は解けないのだから。

曲を歌い終わり、ステージから去っていっても拍手は鳴り止まなかった。
普段なら『アンコール!』と声が上がるが、ガイドラインに沿って誰も声を出さず拍手でアンコールをした。

それに応えるように彼はステージに戻ってきた。
改めて、今回のライブが無事開催できたこと。
ガイドラインを守って声を挙げずにいてくれてありがとうと述べた。

正直僕自身、誰かは声を上げてしまうのではないかと思っていた。
でも誰も声を挙げず、静かにライブを盛り上げていた。

途中彼自身が客席にマイクを向けるシーンもあったがそれでも静かだった。
それを見て僕自身すこし誇らしかった。

以前ファンはアーティストを写す鏡と聞いたことがある。

誰一人として約束を破らずにいた事を特筆しておきたい。

彼は言った。

「楽しいことをすると免疫力が上がる。
だからライブに来たみんなは免疫力が上がってるぞ!!」

笑い声は聞こえなかったが、恐らくみんな笑っていただろう。

確かにまた明日から頑張ろう。不思議とそう思えた。

そのままアンコールの「僕だけのロックスター」へ
曲中バンドメンバー紹介で、いつもなら
「あなたと伊東歌詞太郎でした!」
という所を
「心のあなたと!伊東歌詞太郎でした!」
と言っていて、言葉が出せないなら心で繋がろうとする彼の姿勢がやはりたまらなくかっこいいと思った。

余韻を残したまま、もう1曲「パラボラ〜ガリレオの夢〜」へ。
不安や希望。
悲しみ
果たされない約束
誰かが捨てた未来

本当に色んなものが重なり目には涙が溢れた。
色んなことを考えた。
状況が重なりすぎている。
光さえ見失いそうな毎日。

でも彼の曲たちは永遠に照らしてくれている。
そう改めて思う。
アンコール2曲を歌い上げると彼は客席に別れを告げ、ステージを後にした。


正直今回のツアー行こうか行くまいか悩んでいた。
この状況で……と何度も自問自答して弾き出した答えが行くという選択。

間違ってるんじゃないかと思った。
でも、どの選択も正しいと思うと彼は言った。
その言葉に救われた人は多いのではないだろうか。

未だ終息が見えないコロナウィルス。
対策してるからと言っても密集の場。
気にならない訳がなかった。

しかし対策はしっかり取られていたことを声を大きくして言いたい。

彼自身色んなライブに足を運び、どのようにライブが運営されてるか研究したそうだ。

もはや当たり前になってきたが、検温、手指消毒、ソーシャルディスタンスの確保はしっかり行われ、ライブのMCの所で
はドアを開け換気を行っていた。
また会場も前回の時と比べ規模が小さくなっていた。
もちろんこれもガイドラインに沿った運営だ。
運営サイドはきちんと対策をしていたからこそ安心して楽しめたと思う。


では我々ファン側はどうか。
本文中に少し触れたが、ライブ中誰一人声を発せず、静かに応援し、一生懸命拍手を送り、笑い話では笑いをこらえていた。
改めて彼のファンのマナーの良さ、
そしてそのファンの1人として誇らしかった。
僕達はきちんとガイドラインを遵守していた。

新しい生活様式になり、オンラインに取って代わるものが増えてきた。
ライブもそうなるのかと思っていた。
だからもしかすると対面のライブはこれが最後かもしれないと少し思っていた。
しかし、ライブ中彼は
オンラインライブはオンラインライブの良さがあると説き、またオンラインライブも路上ライブもホールライブもやると言っていた。
その言葉を信じて待ちたいと思う。

今回は感染症予防の観点から2部公演という形式が取られ、また東京公演では2部のみ配信するためお面着用となった。
この事について突然の発表ですこしざわついた。
中には「顔出ししてないことにこだわるのか」といった意見も見かけた。

最もな意見だ。
でも僕は彼の素顔を見て好きなったのではない。
彼の音楽にひかれたのだ。
確かに彼自身とてもかっこいいと思う。
それも1つの魅力である。

思い出して欲しい。
彼は0か100でしか生きられない。

自分で決めたルールに従う。

一見簡単そうだがとても難しい事を彼はずっと続けているのだ。

そんな生き方だと思う時もある。
でも周りに左右されない軸のブレない生き方だなと思う。
その生き方がやはりたまらなく好きなのだ。

考え方が変わっても本質は変わってない。そんなことを感じたライブだった。

これから先の未来がどうなるか分からない。
前みたいにみんなで歌い合える日が来るのかさえ分からない。

ただ1つ。
この世界は僕たちに似合う世界ではない。
でも
またみんなで歌い合って、笑い合える日が来るまで、お互いに励まし合いながら頑張って生き抜こうと思う。

新しい、
僕たちの似合う世界が来るまで