ひつじ日和

ひつじです。つらつらと書きます。

心·技·体が織り成すもの。

心技体という言葉がある。
精神力(心)・技術(技)・体力(体)の総称のことで、主にスポーツ界等で使われることが多い。
似たような言葉で、健全なる精神は健全なる身体に宿るという言葉がある。
どれか1つ欠けてはならない。
そんな意味をこの言葉から感じることが出来る。
きれい事だと言われるかもしれない。
でもこの言葉達の言うとおりだと思う。
心でも、体でも、技でもどれか1つでも欠けてしまうとバランスが崩れ成り立たなくなってしまう。
そう思う。

ライブ名に「からだ」と名付けるということはそれなりの覚悟があるのだと、容易に想像つくのには時間は掛からなかった。
そして同時に、こんな自分を追い込む名前を付けるアーティストは他にいないなと思った。
そう、伊東歌詞太郎以外は。

2020年初頭から続く新型コロナの混乱の終息が未だに見えぬ中、伊東歌詞太郎が「からだ」というライブを2021年7月25日に開催するという情報が駆け巡り、僕たちを混乱させた。

奇しくも一年延期になった東京オリンピックの開催まっただ中。
いくらその日が伊東歌詞太郎としての誕生日とはいえ、あまりも無謀過ぎるのでは無いか思った。
でも考えてみると、大体彼は無謀なことをやる。
落ち着いて考えてみれば、何も不思議なことは無かった。

ツアーでもない。単発のライブ。
何かきっとある。そんな思いを胸に僕はチケットを申し込み、当日を迎えた。

若者が集まり、サブカルの中心地・渋谷。
その渋谷駅から5分ほど歩いた所に、Veats Shibuyaはある。
JVCケンウッド、通称ビクターがオープンさせた新施設だ。

この混乱の中、ライブハウスが生き残っているだけで嬉しく思う。
会場周辺にはファンが集まり、今か今かと開場を待っていた。
前回のツアー、「プレアデス」の時より、ワクワク感が増していると思った。
ライブへのワクワク感ではなく、なにを発表するのかというドキドキ感と表現した方が正しいのかもしれない。

例に漏れず僕も同じ気持ちだった。
会場内に入り、友人達と始まりを待っていた。

照明が落ちる。
聞き慣れたオープニングSEが会場に鳴り響く。
この今から始まるという感じがたまらなく好きだ。
バンドメンバーが登場し、歌詞太郎本人も出てきた瞬間、会場からは大きな拍手が巻き起こった。感染症対策のガイドラインに沿っているため、声をだせないからだ。
彼が一曲目に披露した曲は「北極星」……ではなく「アストロ」だった・
このことからも、このライブが通常とは違う物だと感じた。
これから出発する。そんな意思表示にも聞こえる唄。
いつもと違う始まり。やっぱり今回は何か違う。
その余韻のまま、夏の季節にぴったりの「真夏のダイヤモンド」へ。
思い起こせば、この曲を初めて聴いたのは2018年の君住む街へツアーの時だった。
それを思えば、もうあの夏から三回季節が回ったのだと思う。
この曲にはいつも背中を押して貰える。
大丈夫。明日は勝てるさと。
根拠なんてない、でも明日になれば出来ているかもしれない。
だから頑張れ!そう音楽に助けて貰っている気がする。
声は出せないが、コールアンドレスポンスの所ではみんなの手がリズムよく上がり、会場は瞬く間に一体感に包まれた。
そのまま、アップテンポの曲が続き、「ムーンウォーカー」のイントロが流れると
リズムに合わせたクラップが会場を包む。
「真夏のダイヤモンド」で1つになった会場はさらにまとまりを見せ、客席のボルテージは最高潮まで上り詰める。声が出せなくたって、ここまで1つになれる。
やっぱりライブはいい物だと強く思った。

3曲を歌い上げ、彼は口を開いた。
でも今回も会場内からは拍手が鳴り止むことは無く、彼は小さく「ありがとう……」「ありがとう……」と繰り返していた。
彼は口を開き、今回来てくれてありがとうと感謝の気持ちを述べた。
依然感染者が増え続けている東京。
さらに、オリンピック開催と相まって、緊急事態宣言発出期間中に人が集まるところに行くのには抵抗があるだろう。
勿論、今は馴染みになった、アルコールでの手指消毒や検温、有事の際に使われる連絡先のフォームへの登録がないと入場不可など、対策は万全に取られている。
また、感染症対策のガイドラインに沿った運営が行われている事はプレアデスツアーで知っていた。それでもやはり心情的には不安にもなる。
その中で来てくれてありがとうと彼は告げた。

その後はボカロカバー曲やオリジナル曲を歌い上げた。
ボカロカバーからは月光潤色ガールと恋愛裁判を披露した。
彼の歌声と主に、光の演出で会場に色を添える。
歌い手の彼らしい楽曲。そう思わずにはいられなかった。
その後「革命トライアングル」を歌い、プレアデスツアーで発表された「World's End」のオリジナル曲を2曲歌い上げた。
「革命前夜だ」この言葉に心が躍る。
ちょうど何か発表をすると言っていた。
この一部分だけ切り取って話しをするのはあまり好きでないが、今回の曲達は今回発表された重大な事へ繋がっているではないかと今になって思う。
その後は前回「プレアデスツアー」から演奏されるようになった「World's End」
彼の曲は相変わらずメッセージ性を持って僕たちに語り変えてくる。
World’s Endだってそうだ。
”たとえ望まない未来が待っていたとしても
その先に見える答えを探し出すだけ”
先が見えない中、来て欲しくない未来が来てしまうかもしれない。
でも、その先に見える本当の答えを探し出すだけと彼は説く。
確かになと思う。以前言っていた立ち止まっても、下を向かなければ立ち止まることにはなら
いと。

そんな事を思っていると、彼は「からだ」について話し出した。
以前、「こころ」ツアーをやって、心を磨いた。
「わざ」ツアーをやって技を磨いた。
そして、次に「からだ」ツアーのところで、彼は歌えなくなってしまった。
声帯結節。
喉にポリープが出来てしまう、歌手や言葉を生業にしている人がなりやすい病気。
そんな病気は彼に取り憑いてしまった。
あの出来事は今でも覚えている。
声帯結節を告白した、「火鳥風月ツアー」悔しくて声をにじませていた。
その後、上野でのシークレットライブで爆発させた悔しさの声。
でも彼は帰ってきた。
しかし、彼自身以前のように歌えていると中々感じていなかったそうだ。
でも上手く歌えないと思いながらも彼はとても彼らしい考えで歌い続けた。
「からだ」がだめなら、「こころ」と「からだ」で届ければいいのでは無いかと。
そんなきれい事と笑われるかもしれない。
でも彼はそんな事でさえもプラスに捉えていた。
体が十分ではない部分は心と技でカバーする。
でもそうすることで、心も技も磨かれた気がすると。
まさにさっきの「World's End」の歌詞に当てはまると思った。
そして続ける、去年の夏に以前と同じ状態に戻れた気がしたと。今だったら「からだ」が出来る。そう思ったのだという。

今日もいい物にする、だから最後まで聞いていって欲しいと
そう伝えると、
ライブでは初披露となる「DEEP BLUE」を歌い出した。
今までとは違い、ゆったりとしっとりと歌い上げられた歌声は観客の心にスッと入り込み、会場からは涙を我慢するような声があちらこちらから上がる。
その感動が残るまま、「さよならだけが人生だ」へ。
この曲も彼のバラード曲の中では定番になりつつある。
この曲の中で人は誰もが孤独だという。
でもその孤独は消せないでも、分かち合えることは出来ると歌っている。
辛い事も分かち合えれば、半減する。
傷付かない人間なんていない。上辺だけではない自分の汚い、見せたくないところを見せ合うことが出来ればまた違った未来があるのでは無いのか。側にいてくれる人もいるよと言っている。気が付くと涙がながれていた。
そのまま、「記憶の箱舟」へ
アニメ主題歌として起用された曲であるが、やはりアニメ主題歌だけにとどまらないメッセージ性を持って、僕たちに語りかける。
この曲中に出てくる
”今日だって 明日だって 傷付くこととか
悲しくなることばかりでも 繰り返す痛みを知った先には 優しさがある”
のフレーズがとても彼らしいといつも思う。
傷付いたからこそ、人に優しく出来るようになった。
彼は以前自著で言っていた。彼の傷はそう簡単に癒える物ではないだろう。
でもそうした経験があったからこそ、彼によって紡がれる曲達はエネルギーが強いのだろうとそう思った。

バラード曲を3曲歌い上げると彼は重大発表を告げた。
「ビクターからメジャーデビューが決まった」と
その言葉に客席からは今日一番の拍手が沸き起こる。
それを聞いていくつか合点が言った事がある。
今日の会場のこと。
物販でいつも必ずと言っていいほどあった新譜のCDがないこと。
メジャーデビューが決まるとある程度動きが取りづらくなる。
全てはその布石だったのかと思う。
彼は続ける。
「子供の頃からの夢をまた叶えられて嬉しい」と。
また何でメジャーに拘るのかと聞かれたことがあると。
返ってきた答えは実に彼らしい言葉だった。
「自分の音楽に価値を付けて貰える機会が増える」
これを聞いて、自著『僕たちに似合う世界』の
『音楽はリスナーに聞いてもらってか価値をつけてもらい、その人の中で魔法になるのだ』
という文章を思い出す。
音楽はどれだけ自分がいい曲が出来たと思っても、価値を付けてくれるのはリスナーだと。
通勤に聞くときにいいと言ってくれたり、
落ち込んだ時に聞くと言ってくれたり
失恋したときに聞くと乗り越えられたりと、いろんな場面で曲に価値を付けてくれるのだと。
メジャーデビューはそういった機会を増やせるんだと語った。
独りよがりなアーティストにはなりたくない。
そんなことも言っていた。驚くほど彼は音楽に対して誠実で、かつ僕たちの側にいてくれようとする。
また努力とはコツコツと右下から左上に伸びていかない。
波を打っていて、いつ上手くなるかは分からない。
突然グンっと上がって上手くなるのが明日かもしれないし、一週間後かもしれない。
その時のためにずっと続ける事が努力じゃないのか彼は言った。
確かにそうだ。同じ角度でずっと上がっていくと明確なゴールがあるはずだ。
でも努力の明確なゴールは目に見えない。
だから今日は少し上手くいった、でも明日は少し失敗をするかもしれない。そのような一進一退を繰り返した先にゴールがあるのだ。それの繰り返しだ。確かにな。そう思った。
真っ直ぐに生きている。
それを改めて実感した。

メジャーデビューが決まった興奮が冷めきれぬまま、ボカロカバー曲ではある物の、彼の代表曲と言っては過言ではない、「ピエロ」へ。
2018年の「火鳥風月ツアー」東京公演。中野サンプラザでのアンコールを思い出してしまう。
あの時は喉に爆弾を抱え、いつ戻ってくるのかも分からない暗闇の中で歌い上げた。
でも今回は違う。
”からだ”も元に戻った。万全な状態。その表情に火鳥風月の時に感じた不安さは微塵も無かった。一時活動休止の時に歌った代表曲のピエロをメジャーデビューが決まったことを報告した直後に歌い上げる。自分には出来ないと思うがその時同時に、やはり彼は音楽に生きているんだなと強く思う。

そしてそのまま、新曲「スプリング・サマークリーム」へ
アニメ・幼なじみが絶対に負けないラブコメ挿入歌。
初めて聞いたときこんなライブにぴったりな曲は無いと思ったがその予想は的中した。
声は出せないが、
””3!2!1!飛び出せ!”の所など、皆指で数字を作って盛り上がっていた。
早くこの世界的な混乱が落ち着いた暁には、みんなで叫ぶぞと思った。
叫ぶことかできる曲で叫べなくて悔しい思いをしたのもつかの間、ドラムが鳴り響く。
「タオルを回すことはできるーっ!!」と彼自身タオルを取り出し、回しだした。
今回は後方スペースから参加していたが、よく客席が見える。タオルを回すタイミング、クラップのタイミングなど揃っていたのがよく分かる。
気のせいだろうか…。声が出せない分客席のタオルはいつもより勢い良く回っていた気がする。
早くまたみんなで声を出して盛り上がりたいなと思った。
「また会いましょう!」
そう声を上げた。「Magic Music」
また会うことを約束する曲。
僕たちを繋げてくれる曲。
終わってしまう。でもこの曲がある限りまた会える。そんな気持ちにさせてくれる。
メジャーデビューが決まったからか、過去1番感情が乗っていたような気がする。
ありがとうと言われた。
そのありがとうのお礼を言いにまたライブに足を運ぼうと強く思っていると彼はステージから降りていった。

カーテンコールは鳴り止まない。
彼の言うところの劇団四季方式の声のないカーテンコール。

それに応えるように彼はまたステージに戻ってきた。
そして今回のライブのことを思い起こすかのように話だした。
やはりその表情は嬉しさが滲み出ていた。
ずっと言っていた「またメジャーデビューしたい!」と言っていた夢。
彼は叶えたのだ。
嬉しくないはずがない。
どの言葉をとっても嬉しそうに聞こえる。
夢を叶えて本当にすごいと思う。
それと同時に本当に嬉しく思った。
そして言った。
どうしてもこの日に言いたかった。
伊東歌詞太郎としての誕生日である7月25日にどうしても言いたかったと。
いつも彼は僕たちに向き合ってくれている。
アンコールで「パラボラ〜ガリレオの夢〜」と「僕だけのロックスター」を歌い、またね!といってステージから消えていった。

夢に進んで歩く。
とても簡単のようなことで難しいこと。
それを彼はずっと言い続けた。
僕自身彼のライブに行くようになってから幾度となく聞いた夢。
メジャーデビューしたい!!
その夢を叶えられたのはやはり心·技·体がひとつになったからでは無いか。
どれかひとつ欠けてしまうと完成しなくなってしまう。
彼自身声帯結節を患い、苦しい思いをした。その苦しみは僕には分からない。
でも彼はそんな経験ですら、礎にして更なる高みへ挑戦し続けた。
明確なゴールない世界で、藻掻くように。
ただ真っ直ぐに。
立ち止まっても下は決して向かず、前を見据え続けた。
その姿に救われた人も多いだろう。
僕もその1人だ。
ちょうど三年前、君住む街へツアー時、体調を崩し、仕事を休んでいた。
ベットの中で何度も悔やんだ。
何度も泣いた。
朝が来て欲しくなくて、寝るのが嫌になって、それが辛くて……。
その時言われた。
【立ち止まっても下を向かなければ、前に進めてる】という言葉。
その一言を聞いてから、早く治そうと思えた。
彼に出会ってなければ、また歩き出せなかっただろう。
ずっと立ち止まって、潰れてしまったかもしれない。
でもそんな時も彼の楽曲は紛れもなく僕の隣にいてくれた。
そんな感覚他の人もあるだろうか。

今回のライブは言わば、【決起集会】ではないか。
メジャーデビューで更なる高みへ向かう彼とそのファンたちの決起集会
だからこそこのセトリなんだろうなと思う。

1人では見ることができない景色もみんなとなら見ることが出来る。

まだこの世界の混乱は収まらない。
でも、その混乱を超えた先には素敵な未来があるはずだ。
その未来がどんなものかはわかんなくてもいい。
でも大丈夫だ。
心·技·体揃った彼がそこにはいる。

きっとこれから先も新しい世界を見せてくれるだろう。
新しい世界でまた前と同じく声を出せる日を待ち続けよう。
最高の仲間たちと。