三千世界を旅して
三千世界。
元は仏教用語であり、「三千大千世界」の略。須弥山を中心とした一つの世界を千倍し、また千倍し、さらに千倍した大きな世界。これが一仏の教化する範囲という。転じて、広い世界のことを指す。
世界は広い。
確かにそうだ。
目の前にあるだけの世界が全てじゃない。
あなたが思ってるほど狭いものじゃないと教えてくれている。
そういった景色を見せてくれた伊東歌詞太郎には感謝しかない。
7月25日。東京・渋谷。
渋谷駅からほど近い場所にVeats Shibuyaはある。
昨年の2021年7月25日に決起集会とも言える「からだ」を行った会場だ。
この日は自身の誕生日ということも相成り、ツアーで行っていた「三千世界/Re:三千世界」ではなく、「シン・三千世界」と銘打って行われた。
会場には平日にも拘らず多くのファンが詰めかけ、チケットはSOLD OUT。
ファンを見てソワソワしてるのがわかる。
早く、彼の誕生日をお祝いしたいのだなと。
会場内には今まで感じたことの無い熱気で溢れていた。
いざ照明が落ち、ライブが始まった。
すっかりお馴染みになったオープニングSE。
否応なしに心が踊る。
始まるんだ。
その好奇心が擽られる感覚。
バンドメンバーが登場し、会場内のボルテージは上がり、歌詞太郎本人が登場すると最高潮に達した。
すっかり定着したが、鳴り止まない盛大の拍手で彼の登場を祝した。
1曲目、歌い出したのは「北極星」。
今回のシン・三千世界は1部と2部で全く違うことを行なった。
実際、2部の1曲目は、「アストロ」だった。
高らかに言っていた。
シン・三千世界は1度限りだと。
だから趣向を変えまくったことをしようとしたのか。
1部の1曲目で「先に言っちゃううもんねー!お誕生日おめでとう!!」と自分自身で誕生日を祝い出した。
会場は拍手で包まれたが、これは未だ感染状況が落ち着きを見せず、声を出せない僕たちの気持ちを代弁したのではないかと思う。
その後、1部2部とで曲は違うが
「キリトリセン」「ミルクとコーヒー」や「約束のスターリーナイト」「ムーンウォーカー」などボカロカバーやオリジナル曲を交えたセットリストで歌い上げていく。
途中口を開き語り出した内容も彼らしいものだった。
自身の誕生日にライブをやるアーティストはなんだか誕生日を祝えと言ってるようなものじゃないかと。
そして、近年の彼のライブはお金を使わせないようにしているのだと。
分かる。下積み時代が長かった彼だからこそ出てくる言葉だ。
来て貰えるだけで嬉しいのにその上お金を使わせるなんて心苦しいのだろう。
ファンの懐事情まで考えてくれてるアーティストは珍しいと思う。
しかしそれに異を唱える人がいた。
応援している人の誕生日ぐらい祝わせてくれ、お金を使わせてくれと。
その話を聞くや否や会場のファンたちは一斉頷き出した。
そんなアウェイの状況でも彼は続ける。
僕には価値がない価値がない。でも自分の作る音楽には自信がある。
常日ごろより言っている、【音楽はリスナーに価値を付けてもらうものだ】と。
彼は誕生日だから変わることはなく、常に音楽に謙虚だった。
偽物になりたくない。
常に高みを目指している彼らしい発言だった。
その後も「帝国少女」や「神のまにまに」「約束のスターリーナイト」「惑星ループ」「少女レイ」などのボカロ曲を歌うなど“歌い手”らしい曲のラインナップの一方、「Heeler」「さよならだけが人生だ」といったバラードでメッセージ性の強いオリジナル曲を歌い上げた。
再びMCで口を開いた彼から出た言葉はあまり聞きくない言葉だった。
今回ツアーで彼は怪我をしてしまった。
そのため、一部の公演が12月に延期になってしまった。
もちろん、音楽に邁進する彼のことだ。
医者の意見を聞かずにライブをやろうとしたが、流石に止められたという。
なんとも彼らしいエピソードではあるものの、なんでいつも、いつもいつも無理をするのだろうか。
その答えは2部のMCで出た。
「僕は君たちに感謝している!
誕生日だけ大切にする男はくそくらえ!!
毎日感謝してるからな!!!」
彼の言葉を借りると、価値のない“自分の音楽”に価値を付けたリスナーに感謝したい。
だから多少の無理をしてでもやり遂げたいと思うのではないだろうか。
でも、病気も治った。
怪我も完治した。
今いるのは完璧な歌詞太郎本人だ。
その本人が「これからは抜群の意味がわかないぐらいすごい歌を届ける!」と言い切った。
そう言い残すと、ラストスパートに向け歌を届けだした。
そう。
抜群の意味のわからないほどの凄い歌を歌った。
彼のライブでは鉄板になってる曲たちがラストスパートを彩る。
1部と2部のラストはmagic music。
僕達と彼を繋げてくれる架け橋みたいな曲。
2部のmagic musicの時事件が起きた。
大サビの「また会いたい」のところを「ありがとうっ!!」と幾度も噛み締めながら叫び続けた。
それだけファンに向けた感謝の気持ちが強いのだと感じずにはいられなかった。
magic musicを歌い上げた後は後ろ髪を引かれるようにステージから去っていった。でも拍手が止むことはない。
2部の最後アンコールで歌い上げたのはまさかの1部の1曲目の北極星だった。
このシン・三千世界は1部2部通して完成されるものではないだろうか。
見上げればずっとそこにある北極星を再び知ることで元の場所に戻ってきたことが認識できる。そんな感覚。今回のツアーで彼と一緒に三千世界を見てきた。北極星を最後に聞くことで長かった三千世界をめぐる旅に終わりを告げ、元の場所に戻ってきた気がする。
今回の旅を礎にして、きっと彼は更なる高みへ進んで行くであろう。
今はゆっくり休み、次の更なる旅路へ一緒に付いて行きたいとそう思う。
大丈夫。
その旅立つ日はきっとそう遠くない。