ひつじ日和

ひつじです。つらつらと書きます。

BLANK DISK

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2018年7月25日

とある1人のシンガーソングライターが復活を遂げた。

シンガーソングライターとしては生命線と取れる、声の危機に直面してもなお、

彼はずっと前を向き続け戻ってきた。

 

彼の名を伊東歌詞太郎という。

 

声帯結節と戦い戻ってきた彼。

彼は復帰ライブでリスナーの予想を斜め上行く事をしだした。

 

予告なしに新譜を出した。

それだけでもびっくりしたのに、キャパ1300の箱に対し、もって来たCDの枚数が1000枚という中々衝撃の事をし出す。

 

本当に彼の事が好きだなって思った。

 

 

そんな記念すべき日に出したCDタイトルは

「BLANK DISK」

初めて見たとき、休止期間(=ブランク)に作られたCD(ディスク)かなと思った。

しかし、ブランクディスクの意味を調べてみると違う気がしてきた。

 

BLANK DISKとはデータが何も書き込まれていない状態のディスクのことを指す。

これだけ見ると今回の事には当てはまらない。

しかし、フォーマットを行ったディスクについても、ブランクディスクと言う。

どちらかと言うと、後者の方が今回のアルバムにふさわしいのではないかと思う。

 

フォーマット。つまり初期化である。

声帯結節を乗り越え、新しい”伊東歌詞太郎”が始まる。

そんなリスタートを切る事をフォーマットと捉えたのではないか。

そう思わずにいられなかった。

 

だからだろうか。

今回BLANK DISKの曲達は今回の休止期間の事を指しているとしか見えなかった。

「言葉と心」「その暖かな手を」「Tonight」「ムーンウォーカー

これだけで、このアルバムが休止期間の事を指しているということを理解するのに、

時間はいらなかった。

その予想は歌詞カードを見て確実に変わった。

 

「言葉と心」

出だしから、この曲は僕たちの心に殴りかかってくる。

言葉に出来なくても 素晴らしいことがあった

言葉にならなくても素晴らしい事があった

 すべて後付けと思われるかもしれないが、言葉に出来ない=発することが出来ないという彼が抱えた声帯結節の事と結びつけるのはそう難しい事ではなかった。

曲中には

明日が来ないような 不安があった

悔しい気持ちだけで 動けない夜があった

が続く。僕は彼はいつでも明るいからそんな事を思っているなんて思ってもいなかった。そのときに気がつく。彼だって不安だったのだ。

曲中繰り返される、離さない、離したくない。それは間違いなく彼の心境。

不安と孤独の中で葛藤している彼の心の中。

僕たちだって彼と離れたくない。

そんな強いメッセージを載せた曲は最後にこう締めている。

いつもまでも君のそばに いたいのです

僕たちだって彼のそばにいたい。

僕もこの曲を聴くと胸が締め付けられる。

 

「その暖かな手を」

この曲も明らかに休止期間の事を指している。

夜が来れば 少しだけ楽になる

置いて行かれないような気がしてる

本音を言えば触れてしまいたくなる

その暖かな手を

彼が見せた彼の弱音ではないか。

不安の中、彼は本音を言ってしまえば触れたくなってしまいたくなると吐露している。

思い上がりかもしれないが、彼はファンに会いたかったではないか。

だって、僕がそうだったのだから。

続く曲中に出てくる

・夢中で紡いだ物語

・心を体のつかの間の別れ

確実に「家庭教室」「声帯結節」の事を指しているとしか考えられなかった。

そして続くサビでは、彼は願望を吐き出す。

会いたかったんだ 会いたかったんだ

その声と笑顔がとても欲しい

会いたかったのは僕たちだってそうだ。

彼の笑顔、歌声が聴きたいと休止期間ずっと思っていた。

ただ、少し僕は怖かった。

これだけ人生が変わる経験をして彼の中で何か変わってしまってはいないのかと思った。

しかし、そんな僕の思いは杞憂に終わる。

久しぶりに声を出し確かめる

少しは変わるモノと思ってた

残念ながら少しも変わりはしない

本当に歌が好きだ

あぁ変わってない。変わらないなっと思った。

あんなに彼にとって人生を変えかねない経験を歌にしてしまう彼の才能に恐怖さえ感じた。

ただ、僕で良ければ手を差し出す。

暖かい手を。

 

「Tonight」

前の2曲に比べると彼の経験のエッセンスは大分薄くなっているように感じる。

しかし、歌詞カードを読み解くとこれも確実に今回の一件に由来していると僕は思った。

確かめようと何回も僕の心のドアノックして

あぁ今日ぐらいは見せていいよな

 

大切なモノだけがずっと心にあるから

君だけの僕じゃない

そっと伝えたけど

恐らく、彼自身僕たちから離れていった時、不安な気持ちになったはずだ。

いざ戻ってくることになったとき、僕たちの気持ちが気になったのではないだろうか。

離れていってまた戻ってきた。

ただ、彼自身、僕たちが待っていることは分かっていたはずだ。

でもやはり心のどこかに不安が会ったのではないか。

だから、彼自身の心のドアをノックして自分の気持ちを確かめたかったのではないか。

その結果大切なモノだけはずっと心にあった。

でも、この曲の後半で彼はらしくない言葉を残す。

君が伝えたメッセージ

僕は受け止めてるいつだって

全て叶えてあげられるわけじゃない

弱気な言葉を珍しく吐いた。

そりゃ確かに彼は魔法使いではない。

僕たちがどれだけ会いたい、曲を聴きたいと思っても限度はある。

全て叶えられられる訳ではないと頭では分かっている。

でも彼に縋ってしまっている。

でも、僕と彼たちが求めているモノは一緒のはずだ。

それはきっと変わらない。

Tonight!

ライブの日の事を指しているのではないか?

僕はそう思った。

だって、僕たちも彼に出会って、物心ついたときからライブ会いたい!

そう求めているから。

彼も彼自身が自分でいられるライブでファンに会いたい。

そうきっと求めているはず。

そう思った。

 

ムーンウォーカー

この曲の歌詞を見たとき、僕は2つの事が思い浮かんだ。 

1つは休止期間で書き上げた「家庭教室」の第5章のマルコの事。

もう1つは人生について。

1つ目の家庭教室のマルコについては

さぁこれから犯罪者にならないかい?

3年ぶり突然の連絡がぶっ飛んでんだ。

のところで察した人も多いはずだ。

それより僕が気になったのは

だって未来なんてもんは 何もわかなくていいや

ぎゅっと2度とない夜を

抱きしめていま

のところだ。

未来に何が起こるなんて誰も分からない。

もしかしたら僕も明日何かで死ぬかもしれない。

明日、事故に遭うかもしれない。

本当に誰もが分からないのだ。

恐らくそれを一番実感しているのは彼自身なのではないか。

思いもせず、声帯結節に罹り、自分のアイデンティティーの歌声がなくなる可能性に直面した。

だれがこんな未来を想像しただろうか。

きっと僕だったらこんな未来に絶望するだろう。

きっと人生を投げ出したくなる。

でも、彼は違った。

きちんと向き合い、休止期間に小説を書き上げたり、声の発声許可が降りてから

血のにじむ努力をしてきた。

その結果いつもの日常が戻ってくる未来であれば、知りたいと誰もが思うだろう。

でも、彼はこの曲で言っている。

「未来なんて何もわかんなくていいや」と。

そんな辛い事でさえ曲に変えてしまう。

だから、彼がこの先作る曲がどんな楽曲か、知りたいと思うけれど、

分からなくてもいいやと思う。

 

 

4曲を見てみると、このうちの1曲が欠けたら「BLANK DISK」ではなくなるだろうと思った。

このあと、「west side story」「From Far East 21」のアルバムを出した。

確かに他の2枚にも今回の出来事に関連するような楽曲達はいるのだが、

もし、違う曲が入っていたら全く違う作品になっていただろうと思う。

 

逆に言えば、この4曲しかBLANK DISKにはしか考えられない。

この4曲がBLANK DISKを構成している要素だと僕は思う。

 

しかし、改めて思う。

自分の大切なモノを失いそうになって、それでも尚、藻掻き、生きていこうとする生き様。

こんな生き方は絶対にマネできない。

それはそうなのだが、自分が前に進めて無くても、下を向いてはいけないと思った。


今回はどちらかというと、彼からのメッセージ性が強かったように感じる。

「帰ってきたよ」

「大丈夫だよ」
そんな事を言われている気がした。

実際、復帰ライブの時、涙を浮かべて声を震わせていた彼。

もうそこに休止前の彼はいなかった。

前を見据えている、いつもの彼がそこにいた。

あんな彼はもう見たくない。

 

でももし、またこの先休止するようなことがあっても恐らく大丈夫だろう。

 

だって、未来なんてもんは何もわかんなくていいんだから。